ヴァーチャル☆ゲーム 番外編
『ノエル・ガスパリード物語』


ヴァーチャル世界の住人である、魔法使い「ノエル・ガスパリード」。
銀の長髪・美しい顔立ち・優しい性格・女のような言葉遣い…。
彼は女なのか?
彼女は男なのか?
今回は、ノエル・ガスパリードの謎に迫ってみよう…。
 
ここは、決して日が沈まない世界。
一度人間界に行ってしまうと、この世界の不自然な空の色にウンザリしてしまう。
…はぁ。珠子ちゃんの料理が食べたい。
「ノエル様、お食事の用意ができております」
「あぁ、ありがとう」
一応、ワタシはエライ魔法使い。屋敷には沢山の使用人サンが住み込みで働いてくれている。
シェフだっているけど、珠子ちゃんの料理の方が、ワタシは好きだ。
「ねぇ、トビラ開いてもらってイイ?」
「また人間界へ行かれるのですか?」
「…イイでしょ!」
この女の子は、ワタシが魔法使いになった時からずっと働いてくれている子。
親を人間界で亡くしてしまったからか、ワタシが人間界に行くときは物凄く心配してくれる。
だけど、それがワタシにとってウザイような嬉しいような、変な感覚にさせるのだ。
「トビラ」というのは、ココと人間界を繋いでいる、ワタシの為の道具のコト。
カギはこの子が所持しているため、開けるのはこの子の役目。
「準備が整いました。いつでも解放できます」
「ありがとー」
「あっ、お食事はよろしいのですか?!」
「うん、いいや!ごめんね、帰ってきたら食べるわ!」
トビラのある部屋に向かう。珠子ちゃん達はもう起きてるかしら?
「トビラ、解放します」
そういった彼女が手をかざすと、トビラが現われて少しだけ開く。
「行ってらっしゃいませ」
「うん、行ってくるわね、タマコ…」
 
「あっ、おはようノエル」
「おはよう…って、アラ?!それ制服?かーわいー!」
「ありがと」
少し照れた珠子ちゃんが可愛らしい。
やっぱココはイイなぁ。あったかくて、スゴク居心地が良いもん。羨ましいなぁ…。
「はい、ノエル!フレンチトーストだよ」
「わぁーっ!おいしそう!!いただきまぁす♪」
珠子ちゃんは嬉しそうににこにこしながら、エプロンを外す。
上着を着て、鞄を持つ。
「…アレ?もう行っちゃうの?」
「うん。ゆっくりしていってね、ノエル!そんじゃ、行ってきまぁす!」
「気を付けてな!」
珠羅達はひらひらと手を振って珠子ちゃんを見送った。
…花が消えた家は、こんなにも淋しいのか。
 
「なぁ、ずっと気になってることがあんだけど」
「ん?何よ、青空」
「ノエルって、男なの?女なの?」
他の3人は、一瞬きょとんとした表情を見せた。
…そして。
「俺も知りてぇっ!」
「男だろ?こんなに変態なんだから!」
「でも美人だよねぇ…」
質問の一斉攻撃に、ワタシは戸惑いを隠せなかった。
あまりの真剣さに、思わず吹き出してしまったくらいだ。
「何でそんなに気になるのよ。どっちでも良くない?」
「…気になるよ」
「ワタシは…」
「ワタシは??」
性別なんて、どうでもいいと思うけどなぁ…。
「女よ!珠羅ざんね〜ん」
3人の表情が、何ともいえず面白かった。
言葉なんていらない。
「ウソくせぇー」って顔で物語っているもの…。
 

「ただいまぁ」
「お帰り、珠子」
「…あれ?珠羅達はいないの?」
「なんでだよ?俺じゃ不満か?」
「ちっ、違うって!」
楽しそうな珠子ちゃんと広紀の会話を聞きながら、ワタシ・快斗・青空・珠羅はポーカーに夢中。
ずぅっと負けっぱなしだからか、3人ともワタシを解放してくれない。
「これで最後よ!…ロイヤル・ストレート・フラッシュ!おーわりっ」
「もーっ!」
青空と快斗はうんざりした表情でトランプを投げる。何度もやるからだよっ!
「ちゃんと片付けてよ!」
「お帰りなさい、珠子ちゃん」
「ただいま、ノエル」
笑顔がやっぱ可愛いなぁ、珠子ちゃんっ!
「ノエルは今日の晩ご飯どうする?」
「夜は家で食べるって言ってきたの。だから今日は遠慮しとくわ。ごめんなさいね」
珠子ちゃんは一瞬淋しそうな表情になってから、すぐに笑顔で頷いた。
「わかった。…んじゃ、持っていってほしいモノがあるから少し待ってて」
「ん?えぇ、わかったわ」
冷蔵庫を覗き込み、白い箱を持ってきた珠子ちゃん。
…何かしら?
「もう行っちゃうの?」
「あっ、えぇ。ごめんね、また今度!」
不機嫌そうな3人と広紀に手を振り、珠子ちゃんの部屋に向かった。
帰りは魔術を込めて、Enterを押せばトビラが開く。
向こうで解放状態を解かない限り、ワタシでも短時間でトビラを開くことができるのだ。
「ごめん、もう行く?なんて聞いて」
「イイのよ。またご飯食べにくるわね」
珠子ちゃんは笑顔で「まってる」と言ってくれた。
「あっ、コレさ、チョコレートムースなんだけど、2個あるから誰かと食べて?ノエルも家で待ってくれてる人がいるでしょ?」
「うん、まぁ…。そのコも名前、タマコって言うのよ。だけど似てないのよねぇ…」
どうしてだろう?ワタシは、あの子の笑顔を見たことがない。笑顔は似てるのかしら?
「きっと淋しいのよ。ノエルが傍にいたら、その人も笑顔になるかもよ?」
本当なんだろうか?
ワタシがいれば?
ワタシという存在で、一体何が変わるというのだろう。
「うん、わかった。ありがと、珠子ちゃん」
珠子ちゃんに笑顔で見送られながら、トビラに入り込む。
閉じると同時に、タマコが現われた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
タマコは首に下げていた金の鍵をかけ、トビラを消した。
珠子ちゃんの言葉が妙に気になって、彼女の顔が直視できない。
「ノエル様?そちらの箱はどうなさったのですか?」
「え?!あっ、コレ?向こうで貰ったのよ」
「そうでしたか」
…少しだけでいい。ほんの一瞬だけでも、それはきっと大切なモノになるだろうから。
「ねぇっ!」
振り返った彼女は、少し驚いた表情しか見せなかった。
‐淋しいのよ…‐
どうしたら、見られるのだろう?
雲に隠れた太陽が見たければ、その雲を吹き飛ばせばいい。
そのためには、風が必要。
貴女の心を隠している雲は、「私」という名の風で吹き飛ばすことができるでしょうか…?
「にっ、2個あるの!だから…、っ!だから一緒に食べましょ?…どう、かしら?」
「…ハイッ!ありがとうございます、ノエル様!」
「っ!」
そう、その笑顔。キラキラしてて、とてもキレイ。
ワタシは、自分の顔が赤く、熱くなっていくのがわかった。
…どうしちゃったのかしら?
だけどこれだけは言える。
珠子ちゃんは魔法使いかもしれない…。
 
確かに踏み出した、足音が聞こえた。
逃げてばかりじゃ、何も始まらない。
ワタシの中で、この退屈な世界で、確かに何かが始まろうとしていた…。
 

この後、チョコレートよりも甘い時間が訪れた。ノエルが彼女に対して恋愛感情を抱くのは、まだ先の話…。
 

「…え?!ノエルって男でしょ?!」
「だって自分で女だって…」
「男だって!抱きしめられたとき、胸はなかったし、腹筋が割れてるのを見せてもらったことがあるし」
「やっぱ男じゃん!変態じゃーんっ!!」

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